自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。完結済。

2020-01-01から1年間の記事一覧

死闘録-シンズデリート-Ⅴ

固有能力レベル2.5【アグニズレター】 畢竟(ひっきょう)するに、爆発であった。 起爆霊である真韻を憑依させ、且つその他有象無象の固有能力を合成させた上での、自身を爆弾と化した決死の突撃(バンザイ・アタック) 具体的な火力でいくと核爆弾2~3発…

死闘録-シンズデリート-Ⅳ

記憶の消失――あるいは、思い出の喪失と言い換えてもよいのかもしれない。 未成年で人生経験に乏しいとはいえ、捉えようによっては掛け替えのない思い出の数々を、死に入替わるごとに無くしていくゆく。 樹矢にとって感慨深いモノから消えていくかと思いきや…

死闘録-シンズデリート-Ⅲ

レベル3、それは他の罪人らが持つ固有能力とは一線を画している其れである。 綿々と続く四百年の間、最も近くにいた村雨ですら超える事の出来なかった境界線。 祖たるパスカルの認識では初め、あらゆる固有能力を制限なく使用出来る の み であったが、違っ…

遡敗歴-バスタードキャリア-急後(堕略現至)

『で――まぁ色々あって火本国に巣くう怪異をひたすら斃して取込み肥大化していったパスカルは、とある切っ掛けを以てして吾輩達の別世界にまで干渉してくる様になって、なんやかんやあって皆でフルボッコにしたは良いけど実はその存在はまだ滅んでなくて、残…

遡敗歴-バスタードキャリア-急

天総角城を脱した後に辿り着いた、要はこの世に生を受けた始まりの地にて。 那津義の寵愛を授かりし獣は絶命した。 親兄弟を食い散らかした大熊の子孫ら――総勢四十二体にも及ぶ天敵からの手厚い歓迎会の結果が、それである。 絶体絶命の状況にありながらも、…

遡敗歴-バスタードキャリア-破

不退転の標榜の下、屍山血河が如く膨大な戦死者を輩出した後に実現した泰平の世。 大規模な戦(いくさ)はその後勃発することはないながらも、しかし内政的には非常に歪んだ現状を孕んでいた。 人間とは異なるかの獣においては自らに害が及ぶことは万に一つ…

遡敗歴-バスタードキャリア-序

身を突き刺す極寒の気温と、むせかえるように濃く漂う血の香り。 合わせて眼前で繰り広げられている凄惨な光景が、その獣にとっては、最古で最初の記憶。 この世に生を受けて1か月にも満たないながらも突如として訪れた危機的状況――つまりは弱肉強食の理(こ…

遡敗歴-バスタードキャリア-序前

『吾輩の予想ではてっきりくっきり沙羅っちが最後まで生き残ると踏んでいたんだけれど、蓋を開けてみればビックリ仰天! 一番可能性が低い樹矢っちだったんだから、神霊の類とはいえども未来は得てして不確定で的中させるのが困難なものなんだなぁーって思っ…

死闘録-シンズデリート-Ⅱ

“ナメクジに塩を振りかければ溶けてしまう”という現象。 それは大半の人間が知識として持っているか、あるいは子供時分に実践した経験があるのではないだろうか。 周知の事実とは言えども浸透圧の兼ね合いから、塩が触れることにより「溶ける」のではなく体…

死闘録-シンズデリート-Ⅰ

かくして火蓋が切って落とされた、最後の大罪人こと南波樹矢vsお館様たるパスカルの対決に関して、状況のみを描写するならばそれは酷く単調なものであった。 ほぼ一方的な暴力が展開されるだけの単調なやりとり、である。 主な攻め手は樹矢、対して受け手で…

御黒幕-マスターマインド-

村雨――生前、出雲清春という名であった彼は、過去開催されたゲームにおいて最後まで生き残った大罪人の内の一人である。 紆余曲折あって運営側へと立ち位置が変わった彼は、大罪人から眷族となった後も、己の研鑽を欠かしたことは一日たりともない。 老衰す…

超高域-エクステンド-

人間だった頃の己の趣味嗜好――かつて少女依存症だった絵重は、樹矢の嘲りを聞くな否や即座に攻撃に転じていた。 その巨体からは信じられない位に俊敏な速度で以て、地に横たわる樹矢へと接近し、全体重をあてがうように押し潰した。 押し潰した――つもりだっ…

巨亡蟹-デモンドオブサン-

時速180kmの速度を伴う大型トラックに衝突されたかのような衝撃を受け、五体が吹き飛んだ樹矢。 彼と対峙する村雨の前方には、凡そ人からかけ離れた異形が出現していた。 『ぶくぶく――なんだぁなんだぁ。前情報だと幼女がここに来る確率が50%だってきいて…

再接触-コンタクト-

一瞬の出来事だった。 不意に前方を覆い尽くした巨大な何かに衝突され、四肢が千切れ宙を舞い、地面に叩きつけられた直後ですら、未だ我が身に起こった危機的状況が把握出来ない――一瞬の出来事だった。 甚大なる被害はもはや痛覚すら感じさせず、意識がある…

闇悔廊-ダークロード-

門の先へ足を踏み入れたその大罪人は、黙々と長く暗い廊下を歩く。 傍らには事の発端ともいえるような存在――自爆霊であるボムみが寄り添うようにふわふわと浮遊していた。 『先に行っておくけど、この先で君はその生涯を終えるかもしれない』 『このゲームを…

D??? 残玉:? 門開通迄残刻:???分

鳴雷(なるかみ)の音がどこか遠くから聞こえてきている。 そう遠くない位置なのか、あるいは意識が白濁としている幻聴なのか、ともかくとして今の彼には定かではない。 あるいはこれが死後の世界なのだろうかと邪推しかけもしたが、頭も体もどうやらまだ起…

【東胴回理子 残玉:1 門開通迄残刻:27分】

いみじくも、パートナーである紅蘭と地界からの刺客である塁との決着は、回理子が予感した通りの結末を迎える事となった。 もう二度と紅蘭と会えなくなる現実に、しかしながら一点のみ注釈を加えるならば。 塁 砕 刃 は 未 だ 生 き て い た 。 決死の覚悟…

【西乃沙羅 残玉:1 門開通迄残刻:19分】

投げやりな気持ち……というものが果たして自分にあるのかどうか問いただしたところで、結局の所は大罪人である士との一騎打ちを受けた結果の産物に対する、鑑みる必要もない只の事実から来る悔恨の念でしかないのだろう。 皇はそう思った。 吹き飛んだ箇所を…

【北園紅蘭 残玉:0 門開通迄残刻:37分】

番狂わせを演じる、とはややもすれば大層な表現になるのかもしれない。 それでも、尚以てしても、本来ならば持ちえない力――固有能力を全く使わずに決勝戦まで生存した大罪人は、過去の前例には一つも無かった。 敗退がイコールで死に繋がるデスゲームにおい…

【西乃沙羅 残玉:1 門開通迄残刻:43分】

縷々(るる)として沼に沈み続けていた沙羅は、とある回想を夢に見ていた。 時は凡そ2か月前、場は自宅の一室にて。 男女ツーペアの計四人にて交わされていた、第二回戦へ赴く直前のやり取りである。 ―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―…

【北園紅蘭 残玉:2 門開通迄残刻:51分】

順風満帆。 その瞬間までは概ねそんな四字熟語の通り、うまくいっていたのだろう。 負ければ即爆死のデスゲームにおいて、彼こと北園紅蘭は戦略上わざと命を落とした後に息を吹き返すという荒業をやってのけたが、事実上の決勝戦においても、未だ生きている…

【南波樹矢 残玉:2 門開通迄残刻:105分】

“欲望の坩堝”即ち固有能力【ジャンキーポット】の使い手である、南波樹矢。 彼が取った行動様式――眼前で繰り広げられている行為は、冥奈の理解の範疇を優に越えていた。 「ぜひゅぅぅぅ…………ぜひゅぅぅぅ…………ん、やっぱりマンガみたいには、うまく行かないも…

【北園紅蘭 残玉:2 門開通迄残刻:87分】

すべからく、回理子は火急迅速に惨劇の渦中から離れるべきであったのかもしれない。 それでも彼女は、まるで地に根が生えたかのようにその場から動けなかった。 殺戮の根源たる追跡者へと単身で切り込んでいった彼氏――北園紅蘭の一挙手一投足に、目が離せな…

【西乃沙羅 残玉:2 門開通迄残刻:111分】

やぶれかぶれのままに挑み、結果として窮地に追い込まれるも、首の皮一枚で破滅は免れた。 免れたのだが、しかし。 かつての師匠の乱入によりトドメを刺されなかった沙羅はというと、何の因果であるのか水中へと沈んでいる最中であった。 ブリューナクの槍に…

【北園紅蘭 残玉:2 門開通迄残刻:93分】

舐め過ぎていた、と。 塁はそう感じざるを得なかった。 そもそも塁はおよそ4世紀ほど前、地界より火本国へと訪れた過去がある。 当時の火本国天下統一のフィナーレとも言える狗川(くがわ)家と余富(よとみ)家らとの合戦に交わった時――彼自身、銃器という…

【南波樹矢 残玉:2 門開通迄残刻:111分】

決して振り返らず、無我夢中且つ全力で余物樹海を走り続けるも、ついには体力の限界が訪れた為であろうか。 大罪ランク11位。博愛依存症こと南波樹矢は、前のめりに地面へと倒れ込んだ。 寝返りを打ち、大の字よろしく四肢を投げ出し、荒い呼吸を繰り返す。 …

【東胴回理子 残玉:1 門開通迄残刻:32分】

なまじっか自己の知性の高さを過大評価していたからであろうか。 来るべくして来てしまった悲運に見舞われている今現在を予測し得なかった、自らの愚かさを回理子は呪う。 「どうして、どうしてこんなことに……」 命を賭けた最後の勝負を仕掛けようとしている…

【西乃沙羅 残玉:3 門開通迄残刻:119分】

「二か月間……まぁこれは体感的な話であって実際は1か月位なんだろうけどさ。時に少年、このゲームから解放されたら、一番したい事って何かな?」 「一番したい事、ですか。そうですね、とりあえず生活苦から逃れられそうなので、家族と一緒に何処かへ旅行に…

【北園紅蘭 -第三回戦前日③-】

仇敵たる天の使徒をもうじきこの手にかけられると悦びに打ち震えながら、それでも急ぐ気を削ぐべく坐禅を組み瞑想していた士の元へと、予期せぬ来訪者が現れた。 薄河冥奈。大罪ランクは9位の、兄依存症。 「こんちゃーっす。ねぇねぇおじいちゃん、ちょっと…

【北園紅蘭 -第三回戦前日②-】

はたせるかな、彼は現れた。 ゲームが始まる前も、加えて始まってからも全く接点の無かった彼――北園紅蘭が己の目の前に現れることは、ある種の予定調和というか、そろそろかもしれないという漠然とした予感があったものの、だ。 「こんばんわ北園さん。僕に…