自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。原則毎週水or木曜日更新。

【東胴回理子 残玉:1 門開通迄残刻:27分】

みじくも、パートナーである紅蘭と地界からの刺客である塁との決着は、回理子が予感した通りの結末を迎える事となった。


もう二度と紅蘭と会えなくなる現実に、しかしながら一点のみ注釈を加えるならば。



塁 砕 刃 は 未 だ 生 き て い た 。



決死の覚悟にて紅蘭が死に際に発動した固有能力【ディーエムディーオー】は、確かに彼諸共に塁を煉獄へと転送したのだが、それはあくまで塁の半身に過ぎなかった。


紅蘭の身体へと寄生する布石として塁が使用した“醜躯乱舞流-クレイジーアマルガム-”は、己の身体を細分化するだけにとどまらず そ の 精 神 ま で を も 分 割 していたのである。


無論、かような事情を知らないし知る由もない回理子は、周囲に飛散した塁の残骸(おびただしい数の芋虫のような何か)が蠢き集り追跡者の体を為していく様が展開している様を、阻止することはおろか茫洋として眺めるぐらいしか出来なかった。



「俺様復活ゥ! さーて、いい加減腹の減りも限界だ。そろそろガキを喰らうとするか」


のそりのそりと倒れたままのふるるへと近寄っていく塁。


回理子の事など、全く意に介していない様相である。


「ふっ……ざけるな――!」


異種も甚だしい禍々しき地界人へと、回理子は泣きながら襲いかかった。



「うわぁああああああああぁあ!!!!!」



パートナーを失った悲しみを怒りの感情へ転化させ、絶叫しながら己へと向かってくる残党を一瞥しながら、塁はなんてことは無さそうに頭を掻いて、面倒臭そうに呟いた。



「弔い合戦って奴か? あぁ、もういいよそういうの。あのおにいちゃんが健闘したのは認めるけどさ、おねえちゃん如きじゃどうしようもないって」



乾坤一擲の飛び膝蹴りを腹部に受けるも、塁は全く意に介していないのか、憐れみを込めつつも言い訳じみた言葉を回理子へと投げかける。


「悔しいのは分かるけど、どうしようもないんだって。だって俺様ってば不死だもん」


硬い表皮によって塁へのダメージは一切通らず、むしろ攻め手である回理子の膝の皮が擦過傷によって赤く滲む。



それでも、彼女は止まろうとはしなかった。



「うるさいッ! うるさいうるさいうるさい! よくもッ……よくも北園さんを…… 私 の 紅 蘭 を 殺しやがったなァアアァアッ!!!!」



彼女よりも一回り背の高い塁へと回理子はアッパーカットのような打撃を繰り返し、何度も何度も憎き追跡者の顔面へ拳が当たる。



「ぶっちゃけさ、少しばかり期待してたトコはあったがなぁ」


雨あられの様に弾丸を浴びようが、震えて燃える大太刀で斬られようが、連続で雷の直撃を喰らおうが、異次元空間に身体を刻まれようが――」



「結 局 俺 様 は ま た 死 ぬ 事 が 出 来 な か っ た 訳 だ し よ 」



「知った事か! いいからさっさと死ねッ!! さっさと死になさいッ!!!」


反魂玉のペナルティにより既に聴覚と触覚を著しく低下させていた回理子は、慰みの言葉には耳を貸さず、剥き出しの殺意を絶叫に変えながら、塁を殴り続けた。


十指の骨が砕けようとも、一向に彼女は止まる気配は見せない。


「か~なりイイ線いってたんだがな、惜しいぜ。特にラストの道連れ紛いの引き摺り込みには流石の俺様も肝を冷やしたわ」


天獄ならまだしも、煉獄はマジでヤベェからな。存在を維持出来なくなっちまう……って、なんだこりゃ?」


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塁が目線を下げると、そこには回理子がいた。



否、回 理 子 と 思 し き 何 か が あ っ た という表現が近しいのかもしれない。



『お前だけは許さない』


『何が何でも絶対に殺す』


『【ドッペルアナザー】の真髄――身をもって味わうがよい』



薪の様に真っ二つに割られた頭部の奥。


砕けた頭蓋骨の内側にて蠢く、灰色の脳味噌に埋め込まれた剥き出しの巨大な眼球。


それが発しているであろう、臨界点を越えた憤怒の言葉。



強烈な殺意を向けられながらもきょとんとする塁の眼前には、ドス黒い血液をだらだらと流しながら、端眼に見れば明らかに絶命しているに違いない、回理子の死体が忽然と佇んでいたのであった。


零れ落ちそうな脳髄をゆらゆらと妖しく揺らしながら、おぼつかない足取りにて塁へにじみ寄り、抱きしめるようにぴったりと身体を密着させていく。



「んんっ? 一応納得するまで殴らせてからトドメ刺そうと思ってたんだけど、俺様ってばいつの間にか頭カチ割っちゃってた?」



未だ状況が掴めていない塁へと、正体不明な何かは返事を返す。



『軽口を叩いていられるのも今の内』


『お前の魂の器と有り様は補足した』


『無限の痛みを半永劫に噛み締めよ』



されるがままに抱擁を受けていた塁であったが、不意に強烈な痛みを感じた事で、彼は声を上げた。



「――ぐぉッ! あぁ? なんだぁ……!?」



何本もの棘付きの鉄線が抱き着いてきた死体より伸び生え出し、絡みつく様に塁への体躯を貫き通していた。



『捕まえた捕まえた捕まえた捕まえた』


『離さない離さない離さない離さない』


『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』



攻撃の正体が掴めずに困惑する塁。


その様を嘲笑うかのように鉄条網の数は増加していき、締め付ける力を増していく。



「こんなチャチい紐っきれぐらいで――俺様を止めたつもりかよッ!!」



筋肉繊維を急激に膨張させ、塁は力任せに絡みついた鉄線の拘束を引き千切り、解いた。


それとほぼ同時に、曇天より六つの棺桶が降り注ぎ、塁を取り囲むようにして地面へと突き刺さった。


ギギギギと軋んだ音を立てて、内側から姿を現した各々を見遣り、追跡者はニヤリと口元をほころばせる。



「これはこれは。エラく懐かしい顔触れじゃあねぇか……」



過去、地界において屠って来た魔族達――の中でも、極めて実力が伯仲していた(むしろ塁よりも単純な強さは上に位置していた)存在らが、そこに立っていた。


最終的には寸分違わず完膚なきまでに破壊しつくした上で確実に息の根を止めた筈の連中が、一定距離を置いて塁をぐるりと取り囲んでいる。



『かつてお前が鎬を削った面々を現世に復元した』


『以前よりも強く以前よりも硬く以前よりも迅く』


『ここで終わりだここで終わりだここで終わりだ』



いつの間にか回理子の死体は消え失せており、塁への脳内へと直接声が反響した。



「上等ォ~。雑魚どもが群れようが――――」



前置き無しの強敵の襲来に対しても怯む素振りは一切見せず、塁の士気はむしろ昂ぶりを増していく。


そしてこれより存分に暴れるべく、その体躯を新たな戦闘形態へと変容させていき、咆哮を上げる。



「死ぬまでブッ潰してやるよ!!!」



もはや原型を留めてさえいない禍々しい暴力の化身となった追跡者は、手当たり次第に襲いかかった――。


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「最初から、こうしていれば良かったのに……」



眼 前 で 立 ち 尽 く し 微 動 だ に し な い 塁 を見上げながら、



無 傷 の 状 態 で あ る 回 理 子 は嘆息しながらぼやいた。



「北園さんの意を酌んだ結果、彼を失うなんて……私はなんて愚かなんだろう……」



回理子が持つ固有能力【ドッペルアナザー】


その効能は、いわゆる“認識を歪める”能力である。


対象相手に触れずとも、彼女が そ う な れ ば い い の に と思うだけで発露するこれは、過去処刑者からの捕捉を避ける為に“自らの存在を希薄化”する程度にしか使用していなかったが、しかし。



打 撃 と 共 に 直 に 相 手 の 脳 内 に 叩 き 込 ん だ 威 力 は、その比ではない。



覚める事のない半強制的な白昼夢へと相手を問答無用で引き摺り込み、罹ってしまえば幻術などという単語が空々しく思えてしまう程に強力な洗脳催眠を施す事が可能である。


肉体を再構築した塁への二撃目にて回理子の攻撃は既に完了しており、今や立ち尽くす塁はというと脳内に思い浮かぶ限りの再現性のある仮想敵との戦闘に浸っている事だろう。


半永久的に継続する、終わりのない戦いに身を委(ゆだ)ねることとなる。


彼女の独白の通り、塁との遭遇時にこの戦法を取っていれば、恐らく紅蘭を失うことは無かった筈であろうことは自明の理であったが、しかし第三回戦開始前の彼はそれを良しとしなかった。


あくまで己の手で決着を付けたいと、回理子が提案したこの手法を柔らかに拒否したのである。



「だけど死んだら……死んでしまったら元も子もないじゃない……」



どれだけ後悔しようともしきれない、いくら嘆いても二度と彼と会うことは出来ない、ありふれた絶望によって、回理子は項垂れ、顔を上げようとはしない。


何度も逡巡し、どこで間違ったか分岐点を探すべく反芻していた彼女であったが、ふとある違和感――奇妙な疑問が思い浮かんだ。



「ていうか……私ってこんなにも他人に依存するキャラだったっけ……?」



本質的には自己愛依存症である東胴回理子は、なるべくして才女になったといっても過言は無い。


他者に興味が無い分、自己保全の観念が著しく高かった彼女は、なんてことはない“自分以外の誰からも馬鹿にされない”という至ってシンプルな理由から、成人するまでの大半を勉学に費やした。


結果として一流と言われる大学に現役合格し、一流と言われる企業に内定を貰い、女性ながらも二十代半ばにしてキャリア街道を順調に登っている途中である。


結婚などには興味は無く、少なくとも負け組に分類されない上の中くらいの生活基盤と社会的地位を手に入れ、仕事に身をやつし平穏安泰なる余生を過ごせれば良かった、そんな自分が。


敗退イコール死に繋がる異常事態程度で、こうも他人に対して固執するような性質に――本質が変わるものであろうかと、自問する。



「あと……なんか普通に戦っちゃったりしてるけど……それもおかしくない、か……?」



生命の危機に瀕した故の火事場の馬鹿力、あるいは窮鼠猫を噛むという諺の下に、というだけでは片づけられない、もう一つの疑問。


回理子は記憶している限り、運動系の部活には所属していなかったし、軽めのジョギングならまだしも格闘技術に精通している訳では、勿論無い。


だとすれば、何故。



ツ ッ コ ミ と 称 し て プ ロ 選 手 顔 負 け の 左 フ ッ ク や ロ ー リ ン グ ソ バ ッ ト な ど を さ も 当 た り 前 に 放 つ 事 が 出 来 た ?



それも成人男性を一発で卒倒せしめるクリーンヒットを、何故一介のOLに過ぎない自分が、と。


ギャグマンガのワンシーンであれば道理は通るが、しかし今の自分が置かれたこの状況は紛れもないノンフィクションである。


明らかに何かがおかしい、ボタンを掛け違えたまま気が付いていない自分を俯瞰で見ているもそれを伝えられないような、煮え切らない歯痒さを回理子はひしひしと感じていた。



加えて、真相を究明する為にもう一歩踏み込んでしまえば、 後 戻 り の 出 来 な い 奈 落 へ と 落 ち て い く よ う な 予 感 が、傍にもあった。



だが、彼女はその得も言われぬ気持ち悪さを払拭しないままに放置する選択肢を取れなかった。


ゆっくりと息を吐いて、呼吸を落ち着かせて、それでも高まる心臓の鼓動を押さえつけるようにしながら、呟く。



「もしかして……」



「私はひょっとしたら……」



「あの時――ふるるちゃんと対峙したあの土砂降りの豪雨の日に……」



「一度死んでしまっているんじゃあ……………………………………………………ッ」
























































「ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア 」























































「…………はぁ、そっか。さようか」




「ここで覚めてもうたか。難儀やなしかし」


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げこげこと喉を鳴らして顔を上げた“その存在”の周囲には、いつの間にか何十に及ぶ白い甲冑に身を纏った天使達が包囲網を敷いていた。


2メートル近い槍の切っ先を向けて、背中から扇状の羽根を生やしたそれらの顔の頬辺りには“ⅱ”の数字が刻まれている。



「運命数字(マルケトナンバー)の2。ゴッド直属禁軍の皆々様がそろい踏みやんけ。か弱きおなごを取り囲んで、なんや? 簀巻きにでもするつもりかいな」



ぽりぽりと頭を掻きながら“その存在”は欠伸交じりに小言を吐いた。



『お前はこの次元に干渉してはならない』


『速やかに消えなければ殲滅も厭わない』



感情の籠っていない機械的な口調で、一体の天使が忠告を促した。



「舐められたもんやなァ。寝起きやといえども、それは少々傲慢が過ぎるでしかし。あんさんらの大将ザラエルは、よほど部下の教育が下手なんちゃうかいや」



端から見れば絶体絶命の多勢に無勢に違いないのに、あくまで“その存在”はのほほんとした様相である。


その危機感の無さに苛立ってか、前列の天使らは一斉に槍を振り上げ、威嚇をする。



『忠告はした。従わないならば滅するのみ』


『排撃の槍-リジェクトランス-の錆と消えよ』



今にも襲いかかってきそうな軍勢に対し、“その存在”は軽く笑った。


両目に緑色の“△”と“封”の文字を煌めかせ、耳元まで裂けるぐらいに口元を歪めて、呟いた。



「前口上はもうえぇからさっさとかかってきいや。つっても――」



「 も う 遅 い け ど な 」



同時に、天使達は 身 体 の 内 側 か ら 捻 じ れ る 様 に 一 体 残 ら ず 爆散した。


総勢47人にも及ぶ天獄においては序列No.2の精鋭達が、為す術も無く残らずその生涯を終えた瞬間であった。



「Kill all,Kill all――ケロケロつってな。アンタら雑魚過ぎやわ。まぁウチの強さの次元が違うっつーんもあるけどなぁ。おつかれさんやでしかし」


「まぁそれはえぇんやけど、なんでやっけなー。なんでウチがたかが“敗者復活戦”に 駒 の 一 つ として紛れてもうてたんかなァ」


「目ェ覚めたゆーことは、本来の目的を果たしたからなんやろーけど、解せへん」


「んん~~、えっか! そのうち思い出すやろ。とりあえずなっちゃんかはるちゃんと合流せなあかんよなァ。でもそういう時に限ってふゆ姉とばったり会っちゃうんよなァ」


「ほんまは落ちこぼれの末妹の面ァひと目見てから軽ゥたかったんやけど、儀式が上手くいきゃあどっかで会えるし今回はお暇しとくでよ――って、せや」



ひとしきり呟いた後、“その存在”は何かを思い出したかのようにポンと両手を打って、樹の根元に背を預けていたふるるへとぴょこぴょこと飛び跳ねながら近づぎ、眠りから覚めていない彼女を軽く揺さぶって起こした。


「ん……あれ……まりこおねぇちゃん……?」


「ちゃうちゃう、今のウチは回理子とは別もんや。みてくれこそ一緒やけどなァ」


「えっ。じゃあだれなの……?」



「封爆霊の蛙帰実(あきみ)っつうもんや」



「あきみ、さん?」


「せや。アキちゃんって呼んでくれてえぇで! もう会うこともあらへんさかいに」


「どうして……というかまりこおねえちゃんとぐらんにいちゃんはどこに――」


「んー、ちょっちお子ちゃまには説明ムズいでしかし。まっ、ええやん。あんなぁ話変わるけど、ウチもうちょいしたらここからめっちゃ遠いトコに行かなあかんから先言ゥとくけどな」



「一応追跡者二人とも無力化したっぽいから、もう第三回戦の障害となる奴らはおらんで。そんだけ」



「進行役の兄ィやんは説明してへんかったけど、もうちょいしたら出てくる門をくぐらんでも、このゲームからは降りれるで」


「げーむから……おりる?」


「要するにクリアーゆうことやな。もう対戦規則に縛られて死ぬ恐怖に怯えんでもえェ。短い間やったけどチーム組んどったからな、君にはこの事実を伝えときたかったんよ」


「……そっか、おわれるんだね、やっと」


「せやせや。まだ若いんやし、スパッと忘れて残りの人生謳歌するんをお勧めするでェ。ほんなら、さいなら」



ふるるからの質疑を無視する形で一方的に要件を伝え終わった蛙帰実は、明後日の方向へと歩き去っていった。



残されたふるるは、きょとんとした表情をしたまま現状を掴みかねている様であったが、それでも蛙帰実が振り返る事は無かった。


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まりたんやった時には見えへんかったけど、今ならはっきり“視える”でェ」


余物樹海の東の方角――天を支えるようにして聳え立つ、巨大な中世風の塔を見遣り、蛙帰実はげこげこと喉を鳴らした。




「行くでカテドラル。天獄にカチ込みや」




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そして第三回戦は終わりを告げた。




たった一人生き残った大罪人は何を思うのか。




彼かあるいは彼女かは、やがて。




意を決して、その一歩を踏み出した。




【第五話 了】



※別サイト移管作業の為、最終話の更新開始は7月以降を予定しております。
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