自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。完結済。

エピローグ:それからと、これから。

ぽかぽかと陽気な日差しが降り注ぐ晴天の下。


全国に多数店舗を構える外資フランチャイズ系列の喫茶点の一店舗であるフェアリィクラウンの一角、ある団体客が賑やかに談笑を交わしていた。



「だーかーらよー、センセイ。お前がロリコンなのは許容するとして、せめて付き合うのは一人に絞れっつってんの。一夫多妻制はこの国じゃあ認められてねぇんだし、何より他の娘達が可哀そうだろうが。憐憫、非常に憐憫」


「愛のカタチは人それぞれですぞ西乃氏! 比べたならば拙僧は吹けば飛ぶような経験不足かもしれませぬが、地下アイドルにかける情熱は誰にも負けない! 故に推しが複数いるのはけっして悪ではないのだぞなもし」


「自分を慕ってくる子猫ちゃん全てを受け入れる器量があると言って欲しいな。それと訂正だが、俺の守備範囲は13~17歳に限る訳だから、ロリコンじゃあないぞ。正式にはエフェボフィリアだ。テストに出るから覚えておくように」


「ねーねーまりこおねーちゃーん。あとぱうんどけーきはちじゅっこくらいおかわりしたいー。かってよー。ねーねーねー」


「はっ、八十ケ!? そんなに食べたら虫歯になるどころか糖分摂取超過であそこにいる豚のお兄さんみたく肥満体質になってお嫁に行けなくなっちゃいますよ!!」


「ふははは。食べ盛りで良いではないか、まりたん。よぉし、おじさん今から全力で仕手戦を画策して買収工作やっちゃうぞ~」


「ねぇねぇぐらんさんそんなことよりもさ、つづき! ぜっかいのことうでじかそうがく9ちょうえんのろすとてくのろじーをかけたけっしょうせん、いったいぜんたいどうなっちゃったのさ!! はやくおしえてよ!!!」


「儂も気になるのぅ、北園の。特に知の駆け引きの裏側で繰り広げられる暴の応酬。斯様に愉快で楽し気な宴が戦場以外で行わておったとは、惜しい事をしたもんじゃて」


「同じく私も気になりますね。主にその聖遺物についてですが、非常に興味深い。いやはや、書物だけでは知り得ぬ情報を人伝とは言え聞けるなんて、まだまだ人生死ぬには惜しいと実感しております」


「さっきからムズい話ばっかであたしは良くわかんないけどみんなベリィに楽し気だし二次会ゴーっとく感じだよねぇ。カラオケとかどうかな、かな?? メイちゃん張り切っちゃうよ~」



性別も年齢も多様に異なる一同は、それぞれがそれぞれと終わることの無い会話を楽しんでいた。


その様を俯瞰で眺めている存在が一人。


彼は、眼下の彼らや彼女らを知っている。


知っているが為に、その一情景が本来有り得ないものであることを、暫くして今更ながらに思い出した。



つまるところこれはきっと、夢であるのだなと。



可能性としてはゼロではないにせよ、限りに無く有り得ないその光景の中に、自らが混じっていない点がそれを如実に際立たせている。


と、その時一人の女性が顔を上げて、こちらに目をやった。



「なーにそんなとこでポツンとしてんだよ。少年もこっち来て一緒にわちゃわちゃしよーぜー」


長身長髪黒髪の女性が、にこりとはにかむ。


「記念すべき100番目の彼氏なんだから、どーんと構えてりゃいーんだよ。な、こっち来いって」


折角だけど行きたいのはやまやまだけどまだ無理なんです、そう彼は返した。



「ん……そうか。それは残念だな。でも、なら余計に。それもなるべくならば急いで」




「早く私に会いに来てくれよな」




そして視界が暗転し、彼はあるべき現実へと帰化をする。


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『ヂーッヂッヂッヂッ! なんだなんだぁ、あれだけ息巻いて乗り込んで来た割には、たったのワンパンでオネンネかよ。無様で惨めで情けない、そう思わないか漂流者さんよぉ!!!』



無機質な灰色一色で構成された、西洋の宮殿を思わせる様な荘厳な建造物の最上階の、一角にて。


耳障りな嘲りの文句が自分に向けられたと同時に、樹矢は意識を取り戻した。



「うん、そうだね。前言撤回。正直舐め過ぎていたと少しばかり反省しているよ……ごふっ」



どうやら暫く眠っていたらしい。


身体の前面を等間隔で抉られた――否、食い千切られた痛みがじわりじわりとその身を蝕み、唾液なり胃液なりが少々混じっているであろう濁った血をべちゃりと吐き出しながら、樹矢はふらつきながら立ち上がる。



「どうにもこうにも、最近連戦続きだからなぁ。とはいえ、流石と言うべきだね。“イレブンルーラー”の称号は伊達じゃあない。たかだか愛らしいネズミを模したマスコットキャラだと侮っていたと謝ろう、ごめんなさい」


『素直なのは良いことだが、しかし! ミーはチミを許しはしない、絶対にだ!』


眼前におわす不自然なまでに頭部の大きなその存在は、ぱっと見で死に体な樹矢へと死刑宣告さながらの罵詈を飛ばす。



戯本国を統べる鎮守府たる霊的存在、ルクレティウス=ボナパルト


四百年ほど前においてパスカルを最下に貶めた、高次存在らの一人。



『臭うんだよなぁ、あの忌々しいクソ雑魚ワン公のくっさい匂いがさぁ。かつて我々が完膚なきまで貶めた負け犬の、懐かしくも嫌らしい薄汚ェ感じが、これ以上も無くミーを苛立たせる』


『どうやってここまで辿り着いたのか、どうしてそこまで死にかけているのにまだ助かろうとしているのか理解に及ばないが――だとしてもチミはここで殺害決定! 惨たらしくその安い命を散らすんだよぉお!!!』



言って、ルクレティウスは両手を擦り合わせ、そのモーションと同期するかの様に、無数の口蓋が周囲に浮かび上がった。


『触れるモノ全てを喰らい尽くす【バッドバンデッドバレッドマウス】ッ! 今度という今度こそチミを全てを細切れにしてやるのさっ!!!』


死骸の一欠片すら残さんぞと、そう言い放ったのを皮切りに、ルクレティウスが具現化したB3Mが樹矢目掛けて襲いかかった。


「小洒落た技名じゃないか。ははっ、マンガみたいだね」



ルクレティウスの放った数多の口蓋群との接触する間際の、直前にて。



樹矢は 自 ら 爆 発 四 散 した。



『だけども温(ぬる)い、至極温い。知ってるか? ブロンズでもシルバーでもゴールドでも、聖闘士は一度喰らった技は二度と通用しないってことを』


『戦々恐々としつつ備え無しで挑んだ結果が、想定よりも遥かに格下とか本当にもう――ま、その分僕が楽になるだけだから都合は良い、か』


『てゆーかキメ台詞吐いてるとこアレなんだけど、君さぁ。いい加減そろそろ一通りボコられてから本気出す癖やめない……? ワタシも見ててしんどいんよね、それ』



爆破後に肉体を再構築した樹矢の傍ら、白い三角頭巾を身に着けた少女が佇みながら愚痴を零した。


自爆霊こと、ボムみである。



『それは見解の相違という奴だよ。これから巡る十一の世界のトップの力量を計る上で必要なプロセスを講じているだけなんだからさ』


転換と同時に至福暗転-レフトプッシュ-を発動しルクレティウスを物言わぬ屍へと変えた後、樹矢はつまらなさそうにボムみへと返事をする。



『何度目になるか分からないけど。ねぇ、ボムみちゃん』


パスカルとの最終決戦時、君が 沙 羅 さ ん か ら 記 憶 と 潜 在 能 力 と を 借 り た 後 オリジナルが何処に存在するか分からないのは、今も変わらないの?』


『うーんうーん、それなんだけどね、変わらず! でーもでもでも、十一の並行世界の内のいずれかには居るとは思うよっ! ギャハハハハ!!!』


『威張るトコでも爆笑するトコでも無いんだけどなぁ……』



ルクレティウスより抽出した膨大な魂力を羈絆門-キハンモン-へと流し込み、起動の準備が整った。



残す世界はこれで、十一から一が引かれた、あと十つ。



『単純計算で10%。次は当たると良いなぁ。早く逢いたいな――初めての、僕の彼女に』


『んんんっ? 何やら気になるワードが飛び出したのでもう一回リピートアフターミィ!!』


『うるさいよ。よし、出来た。じゃあ次の世界にカチコミかけに行こっか』




言って、大罪人と自爆霊のコンビは次なるステージへと足を運ぶ。





一方は最愛の人を探し出す為に、もう一方は己の系譜を見つけ出す為に。





禊は終えども、旅は未だ続く。





【自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人 完】