自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。原則毎週水or木曜日更新。

【北園紅蘭 -第三回戦前日②-】

たせるかな、彼は現れた。


ゲームが始まる前も、加えて始まってからも全く接点の無かった彼――北園紅蘭が己の目の前に現れることは、ある種の予定調和というか、そろそろかもしれないという漠然とした予感があったものの、だ。


「こんばんわ北園さん。僕に何か用ですか?」


南波樹矢はぺこりと頭を下げながら、相手の意図を推し量るべく必要最低限の質問を行い、応答を待つ。


「兼ねてから同性の参加者とゲーム中に対話を試みるのは、今回が初なのかもしらん」


「とはいえ時間は有限だ。簡潔にゆこうか。我が此処に来た要件は二つある」


稲妻型に剃り込みの入った短髪を撫で下ろし、紅蘭は真剣な面持ちのままに述べた。


「要求及び要望である。無論それを断ったからといって、貴様らが不益を被る行いは決してしないと約束しよう」


「要求及び要望……ですか」


さしあたっての不信感は感じないにせよ、樹矢はほんの少しだけ眉をひそめた。


眼前の男――樹矢よりも年上であろうこの参加者は、第二回戦中に年端のいかない少女が死体として発見された直後、少しも取り乱さずにに選別タイムを先だって取り仕切ろうとしていた実績がある。


非常時ゆえの非情値とは言わずもがな、どこか人間味に欠けた人であるなと、樹矢は当時そのような印象を抱いていた。


内心それどころかテンパり放題であった彼の心情を 沙 羅 で な い 樹矢は知る術を持っていなかったし、紅蘭もそれを見越しての行動である。



大罪ランク11位。博愛依存症。南波樹矢。


どこにでもいそうなおとなしめの男子中学生でありながらも、あにはからんや処刑者兼参加者である軽里玖留里もとい辺閂を撃破する引鉄となった常軌を逸した行動は、



己の傍らに存在する 東 胴 回 理 子 と 同 等 か そ れ 以 上 の 危 険 性 を 孕 ん で い る と、紅蘭は認識せざるを得なかったのだから。



成人男性が故の世間体に重きを置いた行動を非人道的だと看做されている樹矢の胸中は察していないながらも、それでも紅蘭は普段常時発する高慢な態度で相手を逆撫でしないように、言葉を選び、端的に自らの要求を告げるのだった。


「一つ。次なる第三回戦において、我とまりたんと高低は、何があろうとも、貴様と貴様のパートナーに手を出さない」


「要は不戦の約定を結びたいのだ」


「生存しているプレイヤーは全て勝者、でしたっけ。なるほど、互いに邪魔しあって事を荒立てたくないということなのでしょうか」


「その通りだ。して、返答は?」


「願ったり叶ったりです。その要求、呑みます。沙羅さんは僕の方で説得するので大丈夫です」


殆ど間を置かずに二つ返事であっさりと快諾する樹矢に対し、紅蘭は少しだけぎくりとした。



(牽制は一切無し、か……だが問題はもう片方であるが…………さて……)



「それでは次に二つめ。南波樹矢、貴様の【ジャンキージャンクポット】で知り得る限りである 全 参 加 者 の 固 有 能 力 の 詳 細 を我に教えてはくれまいか」


「……ちなみに、理由を聞いても?」


「生存確率を上げる為、とだけしか言えぬ。さぁ、どうだろう。返事を聞かせてくれ」


「条件が一つだけあります」


「よかろう、言ってみよ」


「沙羅さんの能力だけは、教える事が出来ません」


「それは何故だ?」


「他の参加者の誰にも絶対に言ってはいけないという約束を、僕が彼女と既にしてしまっているからです」


「そうか」


「そうです」


「…………………………わかった、少し物足りぬが、それでも構わぬ」


「でも、補足だけなら。お伝え出来ます」


「補足?」


「【BomBTube】で既に動画を観られているのなら話は早いのですが、」



「沙羅さんのチカラは 身 体 能 力 強 化 な ど で は あ り ま せ ん」



「ふむ、そうか。充分だ、感謝する」


「いえ、お気になさらず。では早速、敗退した厚山さんですけれども――」


「待て、その前に我からも貴様に伝えるべきことがある」


前置き無くつらつらと他参加者の固有能力を詳らかにしようとする樹矢を、片手を突き出し静止の意を示しながら遮る紅蘭。


「断っておくが、これは何も貴様が我の要求と要望に真摯に応えてくれたからではない」


「ほんの老婆心というか、違うな。所詮持つ者の驕りが生んだ気まぐれによる一環だと思ってくれれば良い」


「それはどういう、」


「南波葉子」


「え……?」


「貴様の母親たる女が抱えていた多大なる借金は、つい先ほど我が手を回し零にしておいた」


「ッ!? ていうか二千万円以上も、一体どうやって用意してーー」


独立行政法人CEOの肩書は伊達ではない。感覚的には遠足のおやつ代以下だが、とはいえそれは別にどうでも良いのだ」


「元よりその根源たる宗教団体を解体する方法も容易かった――しかしな、人は時に信じられない程に弱い生き物だとも言える」


「信仰の向ける先を失った事で絶望し命を絶たれても目覚めが悪いのでな。これからは無理な喜捨行為を強要しないようグループの頭にも我から通達を行ったし、同じ轍を踏むことはあるまいよ」


「なんで母さんの……そんなことまであなたは知っているんですか」


信じられないという樹矢の目線から、怯えや怒りは伺えない。


これ程までに無垢であったかは微妙ながらも、昔は自分にもこんな青くそして若い時代があったのかとやや懐古的な気持ちを覚えながら、紅蘭は箴言を伝えるかのようにして、樹矢へと言い放った。



「戦争の温床と成りたる武器商人風情の俺がほざくには甚だ説得力は無いがな、貴様はもう少し世間を疑った方が良いぞ」



いつの日か我よりも悪い大人に騙され奪われ貶められる前にはなと、ニヒルな表情を浮かべながら。


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(何でかなぁー。何で負けちゃったんだろうなー)



自信が判断・判別出来ない程には幾度も繰り返した問いを、冥奈は寸分違わずに尚も反復し、心の中で唱え続ける。



そしておもむろに、ぽんと両手を叩いて彼女は閃いたのか、誰もいない自室内にて声を発する。



「そっか! そういうことかぁ!」



「 も っ と 遅 く す れ ば 良 い ん だ 」



結論が出るな否や、固有能力【ニードレストレス】をあっさりと次の段階へ進化させ、打倒女狼への手段を得るべく、冥奈はすぐさま古老兵のねぐらへと向かう。



足取りはすこぶる軽やかでありながらも。


心の底から邪悪な微笑に満ち溢れていた。