自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。完結済。

遡敗歴-バスタードキャリア-急後(堕略現至)

『で――まぁ色々あって火本国に巣くう怪異をひたすら斃して取込み肥大化していったパスカルは、とある切っ掛けを以てして吾輩達の別世界にまで干渉してくる様になって、なんやかんやあって皆でフルボッコにしたは良いけど実はその存在はまだ滅んでなくて、残滓としてあった予知と貸与の能力を駆使し、自らに危害を起こす可能性のある老若男女を争わせた後の生き残りを吸収し続け繰り返し繰り返し吸収し続けて、やがては再び返り咲いてやろうっていう魂胆の下、最終過程たる今に至るのにゃ』


(さいごはしょりすぎててなにがなんだかわからないよ……)



一方的に語られた諸悪の根源たるお館様ことパスカルの過去を聞かされていたふるるは、声には出さずとも嘆息交じりにそう思った。


根幹というか、肝心要の過程をまるっと雑把にまとめられたせいで、本当何が何だかよく分からない。



『とはいえ、彼女が大体的に動いてくれたおかげ様で、吾輩も今の地位に落ち着くことが出来たのだろうから、あまり悪い風には言えないのだがにゃー』


「かのじょ? おやかたさまのせいべつって……」


『それでも今回の儀式が無事完遂されると、それなりに不味い気もするんだにゃー。手が付けられないまでとはいかずとも、それなりに厄介な存在に昇華するというかなんというか――』


悩ましい悩ましいと一人で首肯を繰り返すホワイトヘッド(見た目猫そのもの)は、しかしこの件に関してはこれ以上ふるるへと詳細な説明を行うつもりはない様であった。



「えっと。しつもんしても、いい? なんこか」


『答えられる範囲でなら、いくつでもOKにゃ!』


てっきり即座に断られるだろうしそしたら次どうやって間を持たそうかなぁというふるるの杞憂は、ホワイトヘッドの快諾によって雲散霧消する。



「そのぱるかる、ちゃん? がたべてきたかいいって、じっさいどれぐらいになるの?」



一度死に復活するだけでそもそもが有り得ない話に違いないのだろうけど、自分を含む只の人間に超常的な能力を与え、幾度となく今回の様なデスゲームを開催・運営を執り行う支配者たる存在へと相成った、パスカル



過程において一体、どれだけの“量”と“質”を取り込んだかが気になっての疑問である。



『吾輩の知りうる限りでは、魂の個数は 八 百 万 にちょっと届かない程度で、節操なくあらゆる霊的存在を屠ってきたのだと思うにゃ』


「へ? はっぴゃく……まん?」


『実体すら危うい低俗動物霊からスタートして、お伽噺や神話でお馴染みのメジャーな存在達だったり、将門クラスの超弩級怨霊だったり――善悪問わずしてその殆どが自らよりも格上の存在を片っ端っからぱくぱくしていった結果が、アレにゃ』


そういえば〇〇さん家の奥さんってば実は元レゲエダンサーだったのよ~みたく、よくある世間話の枕かのような調子で回答を述べるホワイトヘッド


「………………」


ふるるは絶句を余儀なくされた。



(りょうもしつもえぐすぎ……)


(というか……そんなきかくがいのそんざいがげーむますたーだったなんて、たしょうちからをもったぷれいやーごときじゃ、ぜったいかちめないじゃんか……)


別次元へと跳躍を試みている最中だとはいえ、あのまま参加者資格を有したままゲームを続行していたならば死は免れなかったであろう事実に、ふるるはぞっとする。



まさか追っかけてきたりとかはないよな、と。



『ちなみにもう間もなくふるるっちの向かっている次元に到着するけれど、他には何かあるかにゃ? 別次元の選者にコンタクトするのは暗黙の了解でご法度が故、流石に道中後も一緒にいるのはマズいんだにゃー』


うっすらと浮んだふるるの不安を察しているかは不明ながら、ホワイトヘッドは一緒にいられる時間が残り少ない事を仄めかした。


「あっ……じゃあさいごにひとつだけ」


『よしなににゃ』



「ぼくがさいごにあったまりこさん――いや、あきみさんはいま、どうなってるの?」



『うん? てっきりこれから這入る世界についての質問がくるかと思ったのだけれど、そうきちゃう? 殊勝な心掛けだにゃー、他人の事が気になるなんて、ふるるっちはやっぱり優しい子なんだにゃー』


殆ど無い額を肉球で撫でる仕草をしながら、ホワイトヘッドはニヤリと笑った。


『時間軸は多少変動しているから一概には言えないのだけれど、まず封爆霊の方は、っと――あぁ、これは酷い』



『余物樹海に出現したカテドラルへ侵入し、登頂後157秒後に 天 獄 は 壊 滅 』



『予想は容易だったとはいえ、被害状況は想定以上にゃ。ていうかふるるっち、 あ ん な の と遭遇して、よくもまぁ無事だったにゃあ』



「ん……でもしゃべったのちょっとだけだったし……」


只者では無い雰囲気を醸し出していたのは肌で感じていたふるるだったが、しかしいきなりカテドラルや天獄などと馴染みのない単語を言われてもピンと来ない。



加えてそう遠くない先に彼女と再び相まみえる際、最悪以上の苦境に叩き落とされる未来が待ち受けている事を、この時点でふるるは知らない。



『そんなこんなでそろそろお別れだにゃ』


あぁそうそう、と。


徐々に輪郭が曖昧に、姿形がフェードアウトする様にうっすらと消失しつつ、ホワイトヘッドはふるるへ最後、こう言い残した。



『これは餞別というかオマケ情報になるのだから、聞き逃してくれて構わないのだけれども』






『件の大罪人こと樹矢っち、詰んじゃったみたい』