自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。完結済。

遡敗歴-バスタードキャリア-序前

『吾輩の予想ではてっきりくっきり沙羅っちが最後まで生き残ると踏んでいたんだけれど、蓋を開けてみればビックリ仰天! 一番可能性が低い樹矢っちだったんだから、神霊の類とはいえども未来は得てして不確定で的中させるのが困難なものなんだなぁーって思ったんだにゃ。概ね沙羅っちは途中で気が付いちゃったんだろうにゃ。彼女がボムみとのファーストコンタクトにおいてしっかりと“自爆霊は憑依対象にしか認識出来ない”って説明があったのにもかかわらず、外出する際の呼びかけで一介のペット風情がボムみにまで反応するのって、よくよく考えると考える迄もなく異常だもんにゃあ。身内にはめっぽう甘い沙羅っちっぽいっちゃあぽいとしても、軽はずみな行動で結末が大きく歪む原因となったボムみはやっぱり爪が甘いよにゃあー。まぁ彼女に指はおろか腕なんてものはにゃいのはおいといても』


「………………」


薄桃色を基調とした、色とりどりの艶やかな空間を、高低ふるるは漂っていた。


亡き双子の兄の呼び声につられての、時空間移動を試みている真っ最中である。



覚醒したてである固有能力レベル0【メイガスドーム】の操縦には未だ慣れていない節があり、目下試行錯誤を行いながらの渡航であったのはままらないとしても。


腑に落ちない点があるとすれば、それはただ一つ。



『ところでふるるっち。勝ちもせず負けもせずにゲームを脱するなんて偉業。いやはや、まだ若いのに凄いにゃー。固有能力にしても空間干渉なんてレアい奴、吾輩の世界には一人もいないにゃ。羨ましいにゃー』



(うわぁ……はなしかけられちゃったよ……)



漂うふるると一定の距離を保ちながら、いつの間にか出現していた、その存在。



つやつやとした肌触りの良さそうな毛並みに、渦巻く螺旋を模様とした双眸。



猫、である。



しかも当たり前の様に人語を介している点から、明らかに普通ではない。



「きみは、なんなの?」


今のところ敵意が感じられない点から、だとしても油断は出来ないとはいえ、ふるるは恐る恐る言葉を返した。


『“誰”でなく“何”と問うあたり、やっぱり聡明なんだにゃー。ととっ、質問に対する回答がまだだったにゃ』


うんうんと満足そうに頷き、コホンと軽く咳ばらいをした後、その猫は自らが何者であるかを名乗った。


『吾輩の名前はホワイトヘッド。似本(にほん)国の鎮守府を兼ねた有機生命体にして、護国を担い人知れず裏方で跋扈する霊的国防柱の筆頭たりえる存在にゃ!』


「いやいや……ぜんぜんわからないよ……」


当の本人(人?)はしっかりと説明をしたつもりだったのであろうが、それを受けたふるるとしては余計に訳が分からなくなる。


『端的に言うならば別の世界線のトップになるのかにゃ。君らのところでいうパスカルと同じ立ち位置というか――あぁ、君は途中でゲームを抜けちゃったから認識が無いのかもしれないけれども』


(ぱすかる………? だれのことだろう……)


不明点だらけなふるるに構わず、どこからどう見ても猫にしか見えない外見であるホワイトヘッドはつらつらと独白よろしく言葉を紡ぎ続けていた。



『なるべくして彼の後釜に収まったというか、結果からするとラッキーパンチで蹴落としたというか、諸々の事情があるとはいえ、しかし難儀なことだにゃあ』


『“聖なる物を犬にやるな”――まさにその通りだにゃ。たった一匹の獣が尋常ならざる執念によって超越者になり、己が望む世界を創生するに至るなんて、境遇から考えれば驚嘆に値する』


『“十二神将のなり損ない”――だったからこそあの大惨敗によって地に堕ち、再起不能か存在そのものが消滅してもなんらおかしくない具合にまで弱り果ててしまう』


『“罪のランクは仇為す順番”――なるほど。現世に留まり続けるには媒体としての肉体が必要不可欠な点から、自らに害を為す対象をあらかじめ選定しておき、未来罪人というレッテルを貼り、対価としての固有能力をそれぞれに与えた上でのゼロサムゲームを何度も繰り返し、最後に残った最も強い魂を糧として喰らい続け、やがてはかつての力を取り戻した』


『“敗退者の数だけ強くなる”――満を持して訪れた悲願成就の最終回にて、何の因果か異例の“レベル3”が生まれてしまった所為で、これまでのように容易く事を運ぶのが厄介になった……のだとしても、にゃ』




人 間 で あ る 以 上 、 魔 犬 に は 絶 対 敵 わ な い 。




自明の理であるかのように、はっきりとホワイトヘッドは断言した。



『固有能力の既成概念に囚われない“レベル3”は、超絶無比でいて無制限かつ無尽蔵に使用が可能な、チートとも言える“力”にゃ』


『樹矢っちもこれまで抑圧していた感情を解き放っての全力を今頃出しているだろうから、支怨十二殺衣転-バイツァゾディアックス-は難なく突破できるとしても――更に奥、境界線を越えた真の姿と対峙すれば、敗退必至は揺るぎない――のにゃ』


『四百年間熟成したマイナスの感情は、それだけ業が深いということだにゃ。自分に仇為す存在を一堂に纏め上げて、その殆どを平らげて更に強くなる――非人道的とはいえ、無駄のない優秀なシステムを構築していると言えるにゃ』



だからこそ、とホワイトヘッドは一呼吸おいて、ふるるを見遣りながら微妙な表情を浮かべ、こう続けた。



『もはやゲームから離脱し、当事者の枠から外れてしまった君にだからこそ、その経緯を知って欲しい――その為に吾輩はいまここにいるんだにゃ』


「けいい……?」


そう経緯にゃ、と殆ど無いに等しい首を縦に振って、ホワイトヘッドは頷く。



『昔々のおとぎ話。事実に基づいた悲劇を……少しばかり語らせてもらうにゃ』