自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。原則毎週水or木曜日更新。

【北園紅蘭 -第三回戦前日①-】

「奇(く)しき存在だったな、“アレ”は」


「一見しただけではあったが存外、人間を超越しているという感想が我自身一番しっくりくるのだよ」


「そうだ……うむ、元よりそのつもり。位置情報は後程ショートメッセージにて送っておこう」


「念を押すが、有志を募るのはあくまで“死んでも構わない”心持ちがあり、且つ過去に数回以上戦場へ馳せ参じたことのある経験者に絞れ」


「給付金は五本まで我がポケットマネーにて負担しよう……違う、五百ではなく五千だ。殉死した場合において親族一人につき五千万、支払うと言っている」


「金目当てで参加を目論む不届き者の排除は、治紀。貴様の采配でもって事前に篩(ふるい)にかけろ。欲に目がくらんだ者は作戦遂行に著しい支障をきたす……微に入り細を穿つ選別を期待しておるぞ」


「あぁ、それと。鎧匠である刑部氏に頼んであった……そうだ、あの試作品を手配してくれ。今の我は視力低下の状態にあるから、それをカバーする装置も見繕ってくれると助かる」


「最後に。我が帰らぬ身となった際は、貴様がGB(ギャロップブラスターズ)を引き継ぐのだ。なに……うむ……まぁな…………というか元より、端から負ける気はないが……そうだ…………一応、言ってみただけだ」



天獄と地界からの刺客――すなわち第三回戦の追跡者とのファーストコンタクトが行われてから1時間あまり経過した頃。


用意された自室にて暖かい食事を摂り終わって尚、一向にスマートフォンでの通話が終わらない彼氏を見ながら、回理子はかつて敵対した参加者への対応を余儀なくされていた。


「ねぇねぇまりこさん、こんどはななならべしよっ! しんけーすいじゃくはあきちゃったよぼく!」


「トランプが好きなんだね、ふるるちゃんは」



大罪ランクは第8位、固有能力【ファントムホール】を持つ幼子。



高低ふるるである。



双子の兄と組み、回理子と紅蘭を窮地に陥れた過去があるにも関わらず、何の因果か再び彼女は一回り年の離れた彼らと行動を共にしていた。


「でもさ、どうしてなの」


「ん~? なにがー??」


「最終的に退場させたのは央栄さんだとしても、一度は対戦規則を逆手に取った北園さんの戦略でお兄さんを殺されかけたのに、どうしてまた組もうだなんて声を掛けてきたの?」


「あぁ、そういう。あのね、さきにぐらんさんをまかそうとしかけたのはぼくたちだったじゃん」


「そうだね」


「ほろろちゃんもぼくもね、あのときはてれびげーむをしているかんかくだったの」


「あのときは?」


「うん。あのときは、まだ」


目線を下げ、歯切れが悪そうに、ばつが悪そうに声のトーンを落としてふるるは答える。


「でもね、ぼくがぐらんさんのりょうてをぶっとばして、ぐらんさんがいきかえって、るーるにせっしょくしたほろろちゃんがばくししかかって、にげたさきでおうさかおじちゃんにほろろちゃんがかえりうちにされて、ひとりになって、そう。ぼくはひとりになったんだ」


「……お兄ちゃん以外に家族はいないの」


「せけんでいうおとうさんっていうそんざいをぼくもほろろちゃんもしらないし、おかあさんはめったにおうちにかえってこないから。かせいふっぽいひともなんにんかいるけど、ごはんをたべるときとねるときいがいは、ほとんどそとにでてるし」


「そっか。ごめんね、変な事を訊いちゃって」


「いいの。でね、さっきのつづきだけどね。ほろろちゃんがばくしして、ぼくはひとりになった。そしたらね、きゅうになんだかなにもかもがこわくなっちゃって」


「こわくてこわくてたえられなくなって、ほんとうは。ほんとうはね? にかいせんでまりこさんとぐらんさんにあやまって、もういちどきょうとうしてもらえないかなぁっておもってた」


「でもそのまえにすごくこわいおねえちゃんがへやにきて、さからったらなにされるかわかんないからてきとうにはなしをあわせてて、そんでとてもねむかったからそのままねちゃったらいつのまにかころされてたみたいなの」


「でも、死んじゃあいなかった。現に今、ふるるちゃんはこうして生きている」


「そうなの。いきているの。だから、だから、しょうじきこうがんむちもはなはだしくて、それこそどのつらさげてほざいてんだおめぇ~っ! ……ってばとうされながらぶんなぐられるかとおもってたけど、それでも――それでも紅蘭さんはボクを迎え入れてくれた」


「あの人はあぁ見えて、優しいから」


「うれしかった、ほんとうのほんとうに、かけねなしにうれしかったよ。だからぼくはもう、にどとあなたたちをうらぎらない。まりこさんもふくめて、だいさんかいせんをいきぬきたい」


「まるで私はついでにー、みたいな言い方がちょっと気に障るんだけど」


「しんぱいしなくてもだいじょうぶだよ、ぐらんさんをとったりしないからあんしんしなって」


「はあっ!? ちょっ、え? 今の聞き捨てならないんだけど!! だっだだだれがだれを盗るっつったお前!?」


「ぱす。あとにかいはできるんだよね? まりこさんのばんだよ、ねぇはやくはやくー」


十以上も下の子供に半ば本気でムキになりながら赤面しヒステリックに喚く回理子の傍へと、通話を終えた紅蘭が胡坐をかいた。


「はっはっは。何やら楽しそうだな。我も混ぜてはくれまいか」


「えー。ぐらんさんってばしょうぶごとぜんぱんおにのようにつよいじゃん。てもあしもでないままかんぷうされるからいやだよー」


「ちょっと北園さん! この子ってばやっぱり生意気過ぎます! 一度破綻したこともあるんだし、やっぱり同盟関係を見直すべきでは!?」


「生意気で結構。子供は小憎たらしいぐらいが丁度良いのだぞ。さてとまりたん、悪いがもう少しだけ我は席を外させてもらおうか」


深紅の袴をばさりと音立て、紅蘭は立ち上がり、悠然と室外に向かって歩いていく。


「あぁもうそうやっていつも勝手に……今度は何処に行くんですか!」


「やれるべきことはやれるだけやっておきたい。故に生存率を少しでも上げる為には、第三回戦開始の前に、我は奴に会って面と向かって話を伺わねばならぬのだ」



黒羊探索の覇者たる南波樹矢にな、と。



振り向きもせずに片手をひらひらと振りながら、紅蘭は部屋を後にしたのだった。