自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。原則毎週水or木曜日更新。

【東胴回理子 -第三回戦前日①-】

非曲直を正す暇もなく、強制的な催眠状態において、生まれてから初めて交際するに至った彼氏と、互いに互いの首を絞めあって絶命した筈――――。


回理子(まりこ)は目を開けた事で、どうやらそれは夢であったようだとひとまず安堵する。


が、既に巫羊液が排出されたポットから這い出て外へと出ると、二秒後にはその認識は誤っていたと打ちのめされてしまうのだった。


少し離れた広間中央部に鎮座せし巨大な黒球の傍ら。


不自然な方向に頸椎がねじり曲がった死体と思わしき参加者が一名、倒れている。


うつ伏せの態勢にもかかわらず、面は天井を仰ぎ、瞬きをせずに固まった表情の男。


軽里玖留里は、果たさずとも果てしなく果てていて。



つまりは、絶命していた。



かつて回理子が単独で行動していた際に、命を狙われた際(きわ)もあったそんな処刑者が、己の認識外で脱落している。


すわ、一大事と身構える所でもあったのだろうが、しかし彼女は思わず膝をつき、顔を覆った。



(対戦自体は夢じゃなく、まだ続いているんだ……ちょっとだけでも期待した私が馬鹿だった……)



負ければ爆死のデスゲームは未だ終わっておらず。


勝てなければ生き残れない、故に勝ち続けなければならない。


そんな落胆を隠しきれない行動のまま固まっていると、不意に後ろから肩を叩かれる。


涙ぐみながら振り返ると、そこには奇抜な格好をした男が立っていた。



極端すぎる程に左右不対称な水色髪。


真っ白な厚皮製ライダージャケット。


腰から下をすっぽりと包み込む赤袴。



「ふむ、そのまま目覚めないかと心配していたが、泣くぐらいには元気なようだな」



大罪ランク7位、北園紅蘭その人であった。



「!! 北園さん!? ……うっ、ぅうぅ~~!!!」


堪え切れず、抱き着き、顔をうずめたまま嗚咽を漏らす回理子。


「おいおいおいおい。人前でいちゃつくのは親の仇かってぐらいに忌み嫌っていたのに急にどうした。お腹でも痛いのか、うん?」


「き”だ”ぞ”の”さ”ん”が生”き”て”く”れ”て”で”嬉”し”い”ん”で”す”~~!! びえ”ーん”!!!」


号泣しながら濁音まじりの訴えで、ぽかぽかと両こぶしを胸に叩きつける回理子。


「めっちゃ鼻水出てるし服にすっごい付いちゃってるけど、泣き顔も可愛いから許すとしよう」


泣きじゃくる彼女の頭を軽く撫でながら、周囲をゆったりと見回し、そして紅蘭はいきなり両腕を広げて高らかに叫び出した。


「ハーッハッハッハ!! どうだ貴様ら! これぞ純愛!! 伴侶を伴った生命に許される唯一無二の特権だ!! いいだろう、羨ましいだろう!! ひれ伏し頭を垂れてつつ、ただひたすらに崇めるがよい!!!」


閂の固有能力【フーズフール】と巫羊液の織り成すコンビネーションから既に意識の覚醒を果たしていた残りの参加者達は、その無駄に大声で場違いな宣言をする紅蘭に対して注目はしたものの、返事はしなかった。


(ぐらんさん、あいかわらずげんきだな。それにまりこさんがないてるの、はじめてみたかもしれない)


(ほぅ……こ奴、言動こそたわけておるが、あの若さで肉体内面をあれ程までに 覆 っ て おるのか。どんな暗器を仕込んどるのかはまだ分らぬが、いずれも既知のシロモノとは異なるようじゃのう)


(~ッるっせぇなぁ、こちとら彼氏がズタボロだっつーのにやたらめったら騒ぐなっつーの。すぐ調子乗るトコ、マジで20年前から変わってねぇなアイツ)


(目覚め最悪なのに見せつけちゃってくれてまぁ。その幸せそうな笑顔とテンション、ぐちゃぐちゃにしてやりたいけど、その前にあたしってば……お姉様にやり返さなきゃいけないんだよねぇ……)


表立っては何も言わずとも腹に一物ありそうな、そんな彼ら彼女らの視線にふっと気付いたからだろうか。


回理子は紅蘭の胸板に埋めていた頭を不意に離して、ポケットから取り出したハンカチでごしごしと顔を拭った後(巫羊液で濡れていたので余計にべちゃべちゃになってしまったが)毅然とした態度で前髪を撫で上げた。


「……はいっ! 今日のデレモード(仮)はこれにておしまいっ!! いやぁ、いつもよりサービスし過ぎた。うっかりしてた。アブナイアブナイ」


「さ、流石にそれには無理があるぞ……」


呆れ顔で唖然とする紅蘭より少し離れた壁際の通路より、仮面を付けた男が足音も立てずにつぅっと現れ、ぱちりぱちりと残存する参加者らへ拍手を浴びせた。


「いやはや、誇張表現無しに十中八九この第二回戦で終わると予想していたのですが、皆様よくぞまぁご無事で何よりです」


濃色豊かなデスマスクを被った白いタキシード姿のゲーム進行役――村雨は、感情の籠っていない声色にて賛辞を呈する。


「非常に、非常に喜ばしいことこの上ない。故に、次が事実上の決勝戦にございます」


「致死率は二乗程跳ね上がりますが、条件を満たせば 複 数 勝 者 も生まれ得る――そんな第三回戦、」



【亜⇔罪-マッドケイドロ-】の幕を開けましょうと彼が言い終わるや否や。



人に非ざる異形の姿形をした、対なる二体の追跡者が広間へと現れたのだった。