自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。原則毎週水or木曜日更新。

【Phase4-A 西乃沙羅 残色 白:4 黒:0 赤:4】

みじくも迂闊で、どこをどう間違えた所為でこのような無残な状況に陥ってしまったのか。


あからさまな悲観はしていないにしろ、西乃沙羅は考える。


第二回目の投票会は結局、第一回目と同じく無記名投票で事なきを終えた。


そしてこの度の第3回目の黒羊弾劾の場においては、順当に行けば三人目の犠牲者が出たことによって、8-3=5人のプレイヤーで評議が行われる筈だった。


筈だったのだが、それでも。


まさか、かような事態が発生するとは誰もが思うまい。



互 い が 互 い の 首 を 締 め 二 人 同 時 に 絶 命 し て い る な ど 。



北園紅蘭。


並びに、


東胴回理子。


豪運の寵児と自己愛の才女は、共に白羊から赤羊へと変貌を遂げてしまったのだ。


残るプレイヤーはあと4人。


黒羊の糸口が全くつかめず、閉塞の一途を辿る苦境を打破するべく、とある一人の参加者が、賭けに出る。


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「実際の所、黒羊なる存在は僕たち参加者の中に本当に実在しているのでしょうか?」


三度目になる投票会(またしても無記名投票)を終えた後、沙羅の部屋である第弐号室にて、南波樹矢はふつふつと湧き上がってはやまない疑問を呟いた。


「推測でしかないのですけど、いずれも僕たち全員が原因不明の睡魔に襲われている間に、いずれかの白羊が赤羊へと変わっている中でですよ」


「争った形跡が見られない点から、原則として参加者各自が寝ている最中に事が起こったと考えられますよね」


「もっとも、あの水色のにーちゃんとツレのねーちゃんは、どうにもお互いで殺し合ったっぽいけどさ」


片腕で腕立て伏せを黙々とこなしながら、沙羅が相槌を返す。


秒速二回のペースはそのままに、それでいて汗もかかずに息も切らさずに粛々と繰り返してはいるが、普段道理の口調にて会話運びが可能であるのは、彼女が日々培ってきた運動量の賜物であった。


「でもなー、それもそれでなんだかなー」


「性別が異なる男女で、しかも同時に窒息死ってのも、出来過ぎというか」


「不自然極まりない非現実的な感じだと思っちゃうのは、私だけなのかなぁ」


「それには同感です。ですが、そこにはやはり超常現象的な何かが要因として絡んでいるというか・・・・・・いや、固有能力絡みなのはきっとそうなのでしょうけど」


「現存するプレイヤー以外の未知の人間――本来存在するはずの無い九人目のプレイヤーがいるのではと、一瞬考えましたが」


それはありませんでしたと、樹矢は暗雲立ち込める曇天を仰ぐかの様にして、真白な天井へと首を上げた。


「九人目ーー仮に〝容疑者X〟なる存在ーーが不在である理由は、ほら。この僕たちが腕に巻いている端末が如実に語っているんですよね」



第二回戦開始前の村雨なる男の説明並びに対戦規則によれば、



黒羊は 普 段 は 白 羊 に 化 け て い る との、事である。



最初の犠牲者である軽里が赤羊になってからは、それこそ砕身の尽力でもって細心の注意を払いつつ、見逃しが無い様交互に端末を監視していた(沙羅と樹矢がそうしていたと同様に、回理子と紅蘭も同様の対策を行なっていた)にもかかわらず、だ。


彼ら彼女らは た だ の 一 度 も 残色:黒が0から変化する際を目撃出来ていない。


故に、意識の無い観察者不在の睡眠時間に自由に動けるものこそが、黒羊たる証拠であると、樹矢は考えていた。


しかし、考えに至ったとはいえそれを如実に証明出来ないならば、机上の空論に他ならない。



樹矢は遣る瀬無い気持ちを抱えていた。



これ以上犠牲者が増え続けるのを、我が身を差し置き悲痛な非常事態として。



黒羊を特定対象として捕らえられないのは、他ならぬ自らの不足の為だと囚われている。



常理ならざる不条理を覆すには、



こ の ま ま じ ゃ あ 駄 目 だ と 彼が思って思って思い詰めたその先に。



彼の固有能力である【ジャンキーポット】は、はたして。



次 な る 段 階 へ と 進 化 を 遂 げ る 。


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「生存している4名の白羊の各自能力についてのおさらいですが、


「西乃さんの固有能力名【ワンダーラビット】改め【ピーピング・ボム】については今までに散々可能性について論じたので省略します。


「同じく僕の【ジャンキーポット】もとい【ジャンキージャンクポット】についてもここは割愛しておきます。


「続く薄河さんの【ニードレストレス】は触れたものを遅くする能力でどうやら自身に対しても効果を有するようですが・・・・・・如何せん決定打に欠ける感触は否めません。


「最後に央栄さんの【オールベット】は第一回戦における例外というか――鬼である対象Aでなくとも自由自在なタイミングで能力を発動した後、他対象に接触することで相手の能力の可否に問わずして問答無用に爆破する様ですが、いずれも赤羊は爆死した様相はなかった為にこれも却下でしょうかね。


「あくまで固有能力に焦点を当ててのみの考察ですが――ともあれ定期的に僕らが罹っている抗えない睡魔に対抗する術は、この中では皆無である様に思えます。


「そして赤羊に為ってしまった彼ら――北園さんも東胴さんも高低ちゃんも軽里さんも逸れに倣って同一である可能性が高いと言えましょう。


「こうなるともはや消去法ですら黒羊を特定出来なくなる訳ですが、ふと思ったんですよ。


「突拍子無しのいきなりに推理小説専門用語になってしまうので、西乃さんからすれば耳にしたことのない用語かもしれませんが、


「“後期エラリー・クイーン問題”をご存知でしょうか?


「あぁ、違う違う違いますね。耳にしたことがないと前振りをしていたにもかかわらず尋ねるだなんて。


「僕としては迂闊でした。ちゃんと説明しますね。


「そもそもの前提として、まずは今僕たちが置かれている状況を紙媒体でも電子版でもどちらでも構わないのですが、


「要するに あ る 推 理 小 説 の 中 の 出 来 事 だと仮定した際にですね、


語り部が南波樹矢こと僕――これは無論西乃さんだとしても一向に構わないのですが、


「ともかく、推理小説には探偵役というものが必ず存在します。


「テンプレートというか大まかな流れとして、①殺人事件が起こる→②現場の状況から探偵が推理を行う③先ほどの②から検証した結果犯人を追及する、になる訳ですが、


「“探偵の知らない情報が存在する(かもしれない)ことを探偵は察知できない”可能性が生じてくるのです。


「言い換えれば、誰かが黒羊として殺戮を行っていたとしても、実際は別の人間に操られていて、直接手を下した加害者でありながら真の黒羊は他に存在している可能性だって、十二分にあるのです。


「しかしながら僕も西乃さんも実際に存在するし、フィクションの出来事でもありはしない。


「あつらえたかのように、個別に【固有能力】なんて便利で非現実的な力を携えていることもあるので、“ノックスの十戒”や“ヴァン・ダインの二十則”なんてもものも適応されるはずもない。


「・・・・・・っとまぁ、少し話が逸れましたが、何が言いたいかっていうと、あれですよ。


「閉鎖されたこの空間から逃れるべく、僕はこれより賭けに出ようと思います。


「“白羊が赤羊になる”条件を 避 け た 上での、戦線離脱を試みてみる次第です。


「頭に浮かんでしまったある仮定を確かめる為には、もはやこれしか方法は無いんですよ。


「本来であれば白兵戦能力に長けている西乃さんが相応しいかもしれませんが、裏が取れていない薄氷が上を歩くが如き拙い考えを、他の人に押し付ける訳にはいきませんしね。


「万一というか、もとい外して当然な理なのでしょうが、もしも僕がミスっていたならば、残る薄河さんと央栄さんを相手取らなきゃならないんでしょうけど、


「西乃さんならきっと大丈夫です。



「その時は僕の分まで、生きてください」



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そんな具合にというか、ほぼ一方的に相手の言い分を聞いた後に。


自身の仮説を立証する為に南波樹矢は、



己 の 舌 を 噛 み 切 っ て 自 害 し た の だ っ た 。



無表情且つ無言のままに、沙羅は樹矢の亡骸を見下ろしながら、思う。



(僕の分まで生きてください、か・・・・・・)



(一般人からしたら常軌を逸脱した異常者に違いないんだろうけど、)



(やっぱりこの子は、最高にカッコイイ奴だった)



遥か昔に一番最初に惚れた男とタメを晴れるぐらいだよと呟いて、勢いよく立ち上がった沙羅は両頬をぱちんと叩いて、奮起の意を言葉に変換する。



「よーし! んじゃまー私も張り切って、大暴れしちゃうぞー!!」



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片翼を捥がれたとまでは言わないまでも、



初期より組んでいた相方を失った女狼は、



純粋な暴力に身をやつす様を予見しつつ、



あらん限りの咆哮と共に全身を震わせる。