自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。完結済。

【Phase2-A 東胴回理子 残色 白:7 黒:0 赤:1】

「のべつ幕無しの二次災害はなんとか回避するに至ったのだが、さてと。まりたん。これから我らはどの様に動いていくべきだと考えている?」


「まずはふるるちゃんから事情聴取、ですかね」



第一回目の投票会の終了後、樹矢と沙羅が一室に集まっていたのと同じく、回理子と紅蘭も現場把握及び先々のスケジュールを策定する為に、顔を合わせていた。



「何度注意しても二人っきりの時は必ずデフォルトで呼ぶあだ名に関してはもう諦めてますけど・・・・・・それでも私はまだ死にたくないので」


「あの子が黒羊かどうかは未だ不確定ーーいや、この際 黒 羊 で は な い 確 率 の 方 が 高 い まですらあるので、どうしてあんな事になったのか、見聞してみないことには何とも言えない、かと」


「そうでない確率が高いとは、何か明確な根拠があるのかな」


「無記名投票にこじつけた北園さんであれば理解っていたかと思ったのですが、なんにせよです」


「私とあなたは、ふるるちゃんの固有能力を把握しているじゃないですか」


「故に途中参加の処刑者某(なにがし)さんが、ああも分かり易く死体になっているって点、当然ふるるちゃんが殺ったってことになりますよね」


「他のプレイヤー達ならいざ知らず、私達にとっては既知の情報。ネタ元がバレているんです」


「そんな中で、あぁも露骨なまでに分かり易く殺るかっていえば、微妙だと思うんですよ」


「処刑者と接触した際に何らかのトラブルがあった所為で、殺意は無かったが自己防衛の為に結果として殺害してしまった――対戦規則には“白羊は別の白羊を殺傷してはならない”なんて文言、記載無いですしね」


回理子は自らの考えを述べながらも、それでもうまく説明出来ない違和感に苛まれていた。


それが伝わったのかどうかは分からないが、回理子の推理を拝聴した上で、紅蘭はより具体的に行動の規範を述べる。


「と、なるとだな。まずは直接童に面会しなくてはならないのだが、彼女が坐している部屋へと赴いた際に、果たしてドアの開閉を許してくれるのだろうか」


「一時的とはいえ我らと協定を結んでいて、それをあやつ側から裏切った事実――確執とも置き換えられるお互いの立場からして、顔を合わせないままに事なきを得たいと、少なくとも思っているのではないだろうか」


「私と北園さんから“恨まれている”と自覚症状がちょっとでもあるならば、その可能性は否めません」


「切り口を変えてひいては乱暴なやり方――つまりは“正直にあった事を話さなければ次回の投票会で黒羊として吊るし上げる”なーんて、脅迫紛いの言質取りも出来なくは無いのですが、その場合、逆上して処刑者と同じくバラバラ死体に変えられるのは御免蒙(こうむ)りたいところですね」


「その点は心配ないだろう」


「何がです?」


「兄と共にビルの屋上で対峙した際に、“北園紅蘭は死んでも生き返る能力を持っている”と 勘 違 い を し て い る 可能性がある。それをブラフに交渉に持ち込んでやれば良い」


「なるほど。北園さんが実際に生き返る所を、ばっちり目撃してますもんね」


「対戦規則を逆手にとって、それこそ命まで賭けたギャンブルは我にとって初の試みだったのだが、ふん。【ムーンフォール】なんぞとは、よくもまぁ洒落た名称をでっち上げたものだ」


「あんな窮地にいるのに、かの文豪が英語教師だった際のロマンチックな意訳が思い浮かぶのもどうかと思いますけど」


「違いない。それに我の固有能力【ハラキリマグナム】はいずれにしろ発動トリガーが“生命活動が著しく困難だと自覚する”なんていう、至極使い勝手の悪いものであるしな」


「なんでそんな無茶苦茶な制約を自ら架したのか理解に苦しみます・・・・・・」



紅蘭自身、ゲームの参加者となった際に、それこそマンガじゃあるまいし、現実の現象からかけ離れた特殊能力が意図的に一つ使用可能であることが分かった時点でも、出来ることならば使わずに事を終えたいと考えていた。


持ち前の豪運を以ってしても太刀打ちの出来ない、人外の存在が障害として目の前に現れた際に、立ち向かう為の手段として、決めた所以であった。


それが事象として実現するかどうかは、現時点ではまだ分からないにせよ。


「兄が類似の能力・・・・・・例えば“一度のみ爆死を回避する”みたいな代物であれば、勝手が分かって尚のこと伝わりやすいのだろうなぁ」


「流石にそこまで都合が良いとは思いませんね」


「案外そんな気がするが、ふむ。不確定要素に関しては詰めた所で詮無きであろうし、童との面会以外で検証を進めていこうか」


「と、言いますと?」


「黒羊は誰か、という点だ」


「さしあたって、お互い確認しておくことがありますね」



「なあ、まりたん
「ねえ、北園さん」



「あなたは」
「おまえは」



「「黒羊?」」


―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―|―

どこまでも白い、真っ白い部屋の中で、高低ふるるはひざを抱えながら俯いていた。


(ほろろちゃんは――おにいちゃんはもういない・・・・・・)


(ぱぱにもままにもあえないまま、ぼくはここでしんじゃうんだ・・・・・・)


(もっといっぱい、あそびたかったな・・・・・・)


(しぬのは・・・・・・いやだな・・・・・・)


いつもいつでも、どこでもどこまでも一緒にいて、行動を共にしていた双子の兄の不在からくる孤独感。


幼年にして頼れる者が皆無な事実から来る、死への絶望感。


そんな負の感情が織り成す螺旋に、泣かずに寡黙を貫き通し、必死に耐えている姿は余りにも痛々しすぎて、年相応からはかけ離れた行為と心中だったにせよ。



ぴーんぽーんっ。



来訪者を告げる呼び鈴が鳴る。


(誰だろう・・・・・・?)


来た人間が黒羊である可能性を加味出来ないぐらいに弱りきっていたふるるは、疑う事無く内側より扉を開ける。



「ちゃおっす。こうやって話すのは始めてかな? えーっと、高低ふるるちゃんだっけ」



とりあえずお姉ちゃんとお話でもしない? 、などと。



桃色パーマの地下アイドル――薄河冥奈は、含み笑いを浮かべていた。