自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。原則毎週水or木曜日更新。

【Phase1-A' 南波樹矢 残色 白:8 黒:0 赤:0】

「禍(か)福は糾(あざな)える縄の如しとはよく言ったもので。ともあれ――無事で良かったよ、少年」


扉の上に両足の踵(かかと)を引っ掛けて逆さ吊りになった体勢から、そのまま後方にくるりと回転し、音を立てる事無く地に足つけて腕組みのポーズをとりつつ、沙羅は樹矢へと労いの言葉をかけた。


「口半開きで白目剥いたままぶら下がっていた西乃さんを迎え入れる僕の気持ちも、少しは考慮してくださいよ・・・・・・」


認識がなければホラーでしかないドッキリを仕掛けた彼女としては、もう少しばかり驚きその他もろもろの反応が欲しかったようで、少しだけ残念そうな表情をしつつ促されるまま樹矢の部屋に入り、真っ白な椅子ではなしにこれまた真っ白な机に直接腰掛けて寛(くつろ)ぎはじめた。


「やだなぁ~、ほんの茶目っ気じゃないか。大体8時間15分の長丁場だし、少しは刺激ってものも必要・・・・・・」


「――単刀直入に訊きますが、西乃さんは“黒”か“白”のどちらでしょうか?」


沙羅の言葉を途中でさえぎり、自らは座らずに立ったままで、樹矢は切り出した。


「ふむ。それは至極全うな質問だね。正直に答えるならば、白だ」


「根拠は?」


「感覚値に寄ってしまって申し訳ないのだけれども た だ そ う だ としか言いようがないねぇ。仮にあたしが黒だから今は白で、今この瞬間から少年を殺そうとすれば、黒に変わるのかもしれないけれどもさ」


左手首に巻かれた腕時計のようなものを上下に振りながら、悪びれもせずに沙羅は曖昧な答えを返した。


同じく樹矢の右腕にも巻かれているそれには、いわゆるバックル部分に時刻を指し示す針や文字盤は一切の無いデジタル仕様であり、



【白:8 黒:0 赤:0】



とだけが表示されていた。


各羊の属性及び残存数を参加者にリアルタイムで通知する標準装備である。


「そうですか。ちなみに僕も沙羅さんと同じく感覚的にですが、黒ではなく白です。無論、事と場合によっては赤に変わってしまうかもしれませんが――西乃さんにお願いがあります」


「えっ、なになに。ついに性の衝動が収まらなくなってあたしの出番が来たって事!?」


「そうじゃなくて・・・・・・僕と一緒に、黒羊を探すのを手伝って欲しいんですよ」


「ゲームの趣旨としては正しい判断だね。他でもない彼氏の頼みだ、断る理由はないさ。いいよ。でもさ、どうやって見つけるつもりなん?」


第二回戦――“羊探索-シーク×シープ-”において、村雨と名乗る司会進行役の男から説明された内容を元にして考えると、色ごとによる勝利条件は下記のようになることになる。



白羊→白羊の中に隠れた黒羊を何らかの方法で見つけ出し、投票タイムにおいて多数決により指名を行い、ペナルティにより爆死させる。


黒羊→白羊に看破される事無く白羊を殺害し(あるいはペナルティによって爆死させ)て、最終的に黒羊だけが残るよう全ての白羊を赤羊に変える。


赤羊→赤羊になる=殺害あるいは爆死により死亡してしまう為、これに変わっただけで行動が出来ない。



「黒羊はさ、そもそも白羊を殺そうとする瞬間しか色が変わらないんだろう? そもそもこの瞬間って表現もおざなりというか、酷く雑把な意味に取れちゃうし。殺意を抱いた時点なのか、直接的な暴力に訴えた時点なのか、あるいは既に殺し終わった時点なのか、はっきりとしていない」


それにさ、と沙羅は続ける。


「それにさ――この装置で色が変化したのを確認したからといって、 誰 が 黒 羊 か ま で は 分 か ら な い 訳だろ? 内側からしか開閉の出来ない部屋の中であれば、少年があたしを招きいれた後、何が起こっているか外からは知覚出来ない筈だろうし」


さっき呼び鈴のボタン連打してた時に扉の向こうからは全く音が聞こえなかったしな、とも付け加えて。


完全防音の個室である。





黒羊が属性を白羊だと偽って、他の白羊に接触し、なんらかの方法で双方いずれかの室内で二人きりになってしまえば、他プレイヤーに気付かれることはまず無いだろう。


しかし、これには相応のリスクがあり、仮に周囲にバレる事無く白羊を殺害――赤羊にすげ替えた後に、己が黒羊だと疑われない為のアリバイ工作が必要になってくるのだが。


だが、沙羅が樹矢に尋ねているのは“その後”のことでもなければ“その瞬間”のことでもなくて、そもそもが“それ以前”のことについてであった。


「事に及ぶ前の段階で、だ。なぁ少年。君は一体全体どうやって黒羊を見つけ出そうとしているの?」


「そんなのは簡単ですよ。因数分解よりも――なんなら四則計算よりもすら、難解なんて要素は微塵も入り込む隙間の無い、至るに極まる簡単な方法です」


僕が、と。


「僕が今から残る6人の参加者を訪問していく中で、 各 々 に 殺 意 を 抱 か せ る よ う な 行 動 を 取 る ので、西乃さんはそれを見ていてください。しっかりと、観察していてください。で、そのうち僕が殺害されて赤羊になったタイミングで、その者を告発してください」


「・・・・・・・・・・・・」


大罪ランクは序列十一位。


博愛依存症である南波樹矢、彼の本質そのものである方法を聞いて、思わず沙羅は眉をひそめた。


「それって、まずもって少年が死んじゃう手法だよね」


「そうです、まずもって僕が死んじゃう手法なのです」


「~~ッ、却下ァ!!!」


「えぇ・・・・・・そんなに声を張り上げなくても。ベストでマストな方法だと、我ながら自信があったのに」


「最愛の彼女として、出来る限り彼氏の意向に沿うような形で手伝いたいとは思うけど、あのなぁ少年。自己犠牲をものともしないその姿勢は敬服の至りってな感じなのだろうけど、その方法って、かなり危ういと言うかリスクしか無い気がするぜ?」


「というと、具体的にはどの辺りがでしょうか?」


「百歩譲ってあたしがその方法に則って、所構わず喧嘩を吹っかける少年を見守った上で、それが原因で少年が殺されたとしよう。でもさ、結局話は元に戻っちゃうのだけれど、全員が全員に殺意を抱かせたとして、その現場をあたしが目撃しない限り 誰 が 少 年 を 殺 害 し た か 不 明 だよな?」


「あ、まぁ。えぇ」


「あたしの部屋もそうだが、室内に人間が一人隠れられるようなスペースは存在している風には見えないし。つって、強いてあげるならばベッドの下とかだろうけれども、生憎あたしは自分の彼氏が殺される様を指ぃ咥えて眺めてられるほど人間を辞めちゃあいない。なんなら逆にソイツをぶっ殺す自信だってあるしな」


「それは。そうかも、ですが」


「時間で区切って、一気にではなく順番にその方法をとればある程度アタリは付けられるんだろうけど、まぁ少年のことだ。どうせ一人の犠牲者も出さずに黒羊を炙り出したいだろうからこれは却下。緩急付けずに総当りになるのは否めねぇ」


己が行おうとしている“自分以外に赤羊を出す事無く一発でケリをつける”方向性までもが見破られていたようで、樹矢は思わず沙羅からの視線を逸らした。


「それだけじゃあない。重ねて言うがこれは非常に危ういんだ。行為に及んだからといって 一 番 初 め に 少 年 が 狙 わ れ る 保 障 は 無 い だろうし、表立って少年に敵意を向けていない振りをして、 別 の 人 間 が 少 年 を 殺 害 し た 風 に 見 せ 掛 け る 事 も 可 能 なんだ。つまりは体の良い撹乱材料を提供しちゃって、ハメられる可能性が高い」


「西乃さんなら、なんとか出来るんじゃないですか?」


やや恣意的とも言える樹矢の物言いに対しても、オーバーに首を振るアクションを返して、沙羅は。


「やってみなくちゃあわからないが、あたしは前提としてやらない」


「なんでですか」


「あたしは少年のことを愛しているから」


「・・・・・・・・・・・・」


「君が死ぬ前提の方法は手伝えないし、手伝わない」


「そうですか・・・・・・」


「でも、だ」


「でも?」


「他の参加者と接点を持つってのは、悪くない考えだとは思うんだ。偉そうなことのたまっといてなんだが、最適解とやらも現状持ち合わせてないときた」


「じゃあ、つまりは西乃さん」


「おぅ。未だ分かんねぇけど違う方法でさ」



誰一人として死なない方法を、見つけようぜ。



握った拳から親指一本立てたグッドマークを作って、沙羅はシニカルに微笑んだのだった。