自爆霊穂“無実ちゃんと十一人の未来罪人

長編ちっくなweb小説の形をした何か。完結済。

【南波樹矢 残玉:2 門開通迄残刻:111分】

決して振り返らず、無我夢中且つ全力で余物樹海を走り続けるも、ついには体力の限界が訪れた為であろうか。 大罪ランク11位。博愛依存症こと南波樹矢は、前のめりに地面へと倒れ込んだ。 寝返りを打ち、大の字よろしく四肢を投げ出し、荒い呼吸を繰り返す。 …

【東胴回理子 残玉:1 門開通迄残刻:32分】

なまじっか自己の知性の高さを過大評価していたからであろうか。 来るべくして来てしまった悲運に見舞われている今現在を予測し得なかった、自らの愚かさを回理子は呪う。 「どうして、どうしてこんなことに……」 命を賭けた最後の勝負を仕掛けようとしている…

【西乃沙羅 残玉:3 門開通迄残刻:119分】

「二か月間……まぁこれは体感的な話であって実際は1か月位なんだろうけどさ。時に少年、このゲームから解放されたら、一番したい事って何かな?」 「一番したい事、ですか。そうですね、とりあえず生活苦から逃れられそうなので、家族と一緒に何処かへ旅行に…

【北園紅蘭 -第三回戦前日③-】

仇敵たる天の使徒をもうじきこの手にかけられると悦びに打ち震えながら、それでも急ぐ気を削ぐべく坐禅を組み瞑想していた士の元へと、予期せぬ来訪者が現れた。 薄河冥奈。大罪ランクは9位の、兄依存症。 「こんちゃーっす。ねぇねぇおじいちゃん、ちょっと…

【北園紅蘭 -第三回戦前日②-】

はたせるかな、彼は現れた。 ゲームが始まる前も、加えて始まってからも全く接点の無かった彼――北園紅蘭が己の目の前に現れることは、ある種の予定調和というか、そろそろかもしれないという漠然とした予感があったものの、だ。 「こんばんわ北園さん。僕に…

【北園紅蘭 -第三回戦前日①-】

「奇(く)しき存在だったな、“アレ”は」 「一見しただけではあったが存外、人間を超越しているという感想が我自身一番しっくりくるのだよ」 「そうだ……うむ、元よりそのつもり。位置情報は後程ショートメッセージにて送っておこう」 「念を押すが、有志を募…

【東胴回理子 -第三回戦前日②-】

底知れぬ雰囲気――それは他を寄せ付けない圧倒的な個のオーラを醸し出している。 「お初にお目にかかります、哀れな人の仔らよ。皇飯屋(すめらぎめしや)です、以後お見知り置きを」 マーブルとイエローが綯い交ぜになっているボブカット。 身に纏うは中東の…

【東胴回理子 -第三回戦前日①-】

理非曲直を正す暇もなく、強制的な催眠状態において、生まれてから初めて交際するに至った彼氏と、互いに互いの首を絞めあって絶命した筈――――。 回理子(まりこ)は目を開けた事で、どうやらそれは夢であったようだとひとまず安堵する。 が、既に巫羊液が排…

【9/28 8:08:48 南波樹矢 残色 白:0 黒:1 赤:0】

惰眠を強制的に貪らされているかのような、深いまどろみより、樹矢は覚醒した。 ポット内を満たしていた巫羊液が、自らの意識が戻ったのと同期するが如く足元に開いた無数の窪みへと吸い込まれていく。 濡れた学生服を滴らせながら、内側よりポットの扉を開…

【Phase4-B 西乃沙羅 残色 白:3 黒:0 赤:4】

「ぬぅ~、不本意なんだけど、アレだ。今まで隠していて悪かった。実は私が黒羊だったり」 第4回目の投票会の場である円形の間にて、出し抜けに沙羅は残りのプレイヤーである士・冥奈へと言い放つ。 「ぼちぼち白羊の数も減ってきたしさ。一時的に組んでいた…

【Phase4-A 西乃沙羅 残色 白:4 黒:0 赤:4】

いみじくも迂闊で、どこをどう間違えた所為でこのような無残な状況に陥ってしまったのか。 あからさまな悲観はしていないにしろ、西乃沙羅は考える。 第二回目の投票会は結局、第一回目と同じく無記名投票で事なきを終えた。 そしてこの度の第3回目の黒羊弾…

【Phase2-B 東胴回理子 残色 白:6 黒:0 赤:2】

なるべくして為ったのか、あるいはしかるべくして然ったのか。 窓はおろか出口の見当たらない真白な閉鎖空間内を更に12等分に区切った各個室。 沙羅は樹矢のいる拾壱号室に、 回理子は紅蘭のいる漆号室に、 冥奈はふるるのいる捌号室に、 それぞれが一人の参…

【Phase2-A 東胴回理子 残色 白:7 黒:0 赤:1】

「のべつ幕無しの二次災害はなんとか回避するに至ったのだが、さてと。まりたん。これから我らはどの様に動いていくべきだと考えている?」 「まずはふるるちゃんから事情聴取、ですかね」 第一回目の投票会の終了後、樹矢と沙羅が一室に集まっていたのと同…

【Phase1-B 南波樹矢 残色 白:7 黒:0 赤:1】

ズタズタであった。 本来であれば胴体に繋がっている筈である右腕が、右脚が、左脚が、左腕が。 そして頭部が、切り離されていた。 おびただしい出血量は、ことが起こってから幾分か時間が経過したからか、赤黒く変色していたとはいえ、沼とまではいかないま…

【Phase1-A' 南波樹矢 残色 白:8 黒:0 赤:0】

「禍(か)福は糾(あざな)える縄の如しとはよく言ったもので。ともあれ――無事で良かったよ、少年」 扉の上に両足の踵(かかと)を引っ掛けて逆さ吊りになった体勢から、そのまま後方にくるりと回転し、音を立てる事無く地に足つけて腕組みのポーズをとりつ…

【Phase1-A 南波樹矢 残色 白:8 黒:0 赤:0】

のっぴきならぬ大事が、はたしてどのタイミングであったのかを、胸に手を当てて思案するとしたならば。 彼こと南波樹矢(みなみたつや)の場合、何度も幾度も逡巡した所で――やはり、担任教師の絵重太陽(えしげたいよう)が他プレイヤーだと知覚した瞬間が、…

【7/24 14:57:31 西乃沙羅 残刻 !s:to:p!】

お伽話のワンシーンに登場するかのような、嘘みたいに長くて真っ直ぐな一本道。 エレベーターを下った後――明かりの無い暗闇を伴った、狭くて暗い直線が三人の前方に続いていた。 はるか前方に見える小さな、正方形に指す光を目指し、勇者パーティ一行が如く…

【7/24 14:14:14 西乃沙羅 残刻 !s:to:p!】

「野垂れ死にしそうなぐらいに暑い――――酷暑、非常に酷暑」 「一番涼しげで奇抜な格好をしているのはお姉様ですけどね。そんなにお肌を露出させて、虫刺されとかは気にならないんですかぁ~?」 「薄河さんの衣装も大概だと思うけどなぁ。というか、∀κ♭4,800…

幕間闇景

殻(から)を突き破ろうとしている刻が近付いている。 光の差さない暗所の奥の辺りで、“それ”は来るべき誕生祭を心待ちにしていた。 耐え忍ぶこと凡そ四百二十五年――永劫にも思える空虚な時間を過ごしてきた過去から現在を帳消しにして、栄えある未来への到…

対象→薄河冥奈の場合【裏】

後(のち)に知ったことだが、あたしの義理の父親はそこまで不真面目な人間では無かったらしい。 ただし、怒ったならばちょっぴり乱暴になるというだけで。 とはいっても酒に酔った勢いでお母さんに暴力を二度も振るったのは事実だったし、何よりそれを娘で…

対象→薄河冥奈の場合【表】

偽りなど介入する隙も暇も無いままに、心の底から苛立ちが募って止まない。 軽里は不機嫌だった。 それは超が付くほどに。仮住まいである家具を手当たり次第破壊する程度には、苛立っていた。 「なんで・・・・・・なんでだッ! どうして女子供の一人も殺せていな…

対象→辺閂の場合【裏】

はがね色の雲を縫うようにして突き抜ける朝日の閃光が目に差したところで、辺閂(あたりかんぬき)は目を覚ました。 初夏ですらない、春真っ只中の5月某日。彼は自宅より遠く離れたC県に訪れていた。新幹線に乗り1時間弱余り。距離で表記するならば大体180…

対象→辺閂の場合【表】

たいした事も無いだろうよ、今回もきっとな。 室内に自分以外には誰もいない事は分かった上で、俺はつい独白してしまう。 電気仕掛けの四角い箱を起動させ、放送局を変えるべく小さな指示棒のゴム釦を何度か押し、お目当てであった報道番組へとチャンネルを…

【6/8 5:47:34 北園紅蘭 残刻 --:--:--】

爛々と輝く目を携えた、彼こと北園紅蘭が一度死んで結局生き返って、推理小説の名探偵が如く種明かしを披露していた所までは覚えていた。 身体表面の亀裂から溢れる青白い光に包まれ、何かを叫ぶ高低兄妹が消失したとほぼ同時ぐらいに、回理子は気を失ってし…

【6/6 7:57:02 北園紅蘭 残刻 DE:AT:H?】

野晒しであった。 幾分か雨足が遅くなってきているとはいえども、屋外で――マンションの屋上にて、地に伏した北園は風雨にさらされていた。 胸に突き刺さった、否、自らが自らに突き立てた刃は、彼の周囲をより一層赤色で染め上げている。 血が赤色の池を作っ…

【6/6 7:49:52 北園紅蘭 残刻 00:09:22】

積上げられたCDのラックを掻き分けるようにして、男はまだ十分に長さのある煙草を灰皿へと放り込んだ。 「いやね、近頃この町ってばとっても物騒じゃあ、ないですか。先々月はちょうどこの先の区間でトラックが横転する事故があったし、先月は通り魔の多発に…

【6/6 6:06:06 東洞回理子 残刻 --:--:--】

将を射んと欲すれば先ず馬を射よという諺は、案外知られているようで知られていない諺であるのはさておき。 去る1ヶ月程前まで、回理子はゲームから脱落しない為に、自らと手を組む同盟の存在を切望していた。 切望して、渇望して。 絶望に押し潰れないよう…

【5/19 8:25:25 東洞回理子 残刻 --:--:--】

神はいるのかもしれない。ひょっとしなくても、回理子は今の好転が、そう思わざるを得なかった。 北園との邂逅を果たしてから、はたして1週間と5日が経過していた。 その間、回理子は何不自由とは行かずとも、「精神的には当初に比べ安堵しているのだな」と…

【5/7 10:25:25 東洞回理子 残刻 31:00:27】

二時間と半刻ばかりの時間が経過した後、回理子はオフィスのある階層から3フロア降った来客用の応接室の前に、朴念仁とした風情で立っていた。 (さて、と) 遡ること始業前にこれからの対処法と制限時間内に鬼を終える方法を思案しながら結局妙案が思い浮か…

【5/7 7:37:41 東洞回理子 残刻 33:48:11】

十全どころか余す所無く不全であるこの状況は、何かの罰であるとしか思えない。 始業開始時間迄あと1時間はあるであろう、誰もいないオフィスの事務室にて、東洞回理子は頭を抱えていた。 (何故私がこんな目にあわなきゃならないんだ) かつて学徒であった…